みなさんは堺正章さんやかまやつひろしさんというお名前を聞いたことがあるでしょうか?このお二人が昭和40年代に在籍したバンドが「スパイダース」です。詳細は改めて紹介しますが、当時は1、2を争うグループだったのですよ。
’67年から’68年を中心に、メンバーが歌から演奏まで全てこなしてしまう演奏シーンをフューチャーした「GS映画」が数多く作られましたが、スパイダースはさすが人気者だけあって、数多くの日活作品に登場しています。
私の観た中では、前述した「青春ア・ゴーゴー」(’66)が年代的に一番最初で、主題歌のタイトルバックを務めるほか、(ヤングアンドフレッシュは「ゴー・ゴー・ゴー」と歌うのですが、スパイダースは「ゴーゴー・ゴーゴー」と軽快に歌い上げています。大野克夫さんがスチールギターを弾いているのが珍しいです。ちなみにレコードではオルガンを弾いています。)ヤングアンドフレッシュがジャズ喫茶でミーティングをしているシーンでは「ヘイ・ボーイ」「ノーノーボーイ」(このときも大野さんはスチールギターです。)を演奏しています。テレビ番組の冒頭で30秒くらい演奏するシーンがあるのですが、この時のマチャアキ(堺正章さん)のタンバリンを叩きながら踊るシーンは実にサマになっています。ヤングアンドフレッシュとの合同演奏では、リーダーでドラムの田辺昭知さんが「これがプロのドラムだぜ」といわんばかりに力いっぱい叩きつけるのですが、ヒデ坊(和田浩治さん)も負けていません。細かいリズムを叩き出して応戦しています。それにしてもヴォーカルの井上順さんがいませんね。どこで油を売っていたのでしょう(笑)
次に私が観たのはやはりヤングアンドフレッシュの項で取り上げた「夕陽が泣いている」(’67)です。井上順さんもこんどはちゃんと出演しています。(笑)「太陽の翼」の演奏シーンに続けてヤングアンドフレッシュが「僕だけのエンジェル」を演奏するのですが、その時の堺さんの「あったよなー」というおどけたセリフが印象的です。
ジャズ喫茶の出演シーンで堺さんが「みなさんも無駄な抵抗をやめて、この曲を覚えて下さい」という司会のセリフに「さすが、ウマイ事言うなー、今度(司会の)弟子入りしようかしら」と感心していると、「涙のイエイエ」の演奏がはじまるのですが、この時に堺さん、かまやつさん、井上順さんそしてギターの井上孝之さんの4人が並んで「イエイエ」というダンスを踊りながら歌うのですが、4人の息がぴったり合っています。
それから「ザ・スパイダースのゴーゴー向こう見ず作戦」(’67)、となるのですが、タイトルに「ザ・スパイダース」と冠されている割にはヤングアンドフレッシュと松原智恵子さんの出番が多いです。まだメンバーの演技が信用されていなかったのかな。(笑)私が勤めていたビクターの工場らしきものが映って、ちょっとビックリしました。
「ザ・スパイダースの大進撃」(’68)はスパイダースの魅力が堪能できる、大変面白い作品でした。
ストーリーはタンバリンに仕込まれた指輪(これを肌身離さず身に着けているマチャアキは高価なモノだとは知らない)と、空港でウッカリ摩り替ってしまった怪しい書類の入ったカバンをそれぞれ二組の悪人が付け狙う、というものでビートルズの「ヘルプ・4人はアイドル」という映画にそっくりです。(私は敢えてスパイダースの方が面白かった、と断言します!)
マネージャーに「青春ア・ゴーゴー」でも同様の役をやった波多野憲さんが、その妹でメンバーのアイドル的存在の和泉雅子さんが登場します。マチャアキと順(井上順さん)の二人に遠まわしに着物をねだるシーンや、「ないごてか」(「なんとなくなんとなく」の鹿児島弁バージョン)の演奏シーンで観客がぞろぞろ席を立ち、メンバーがすっかり白け切っているのをよそに、一人ノリノリで踊るシーンなど、マコちゃんの本領発揮!です。こういったマコちゃんの姿を観ているだけで、雰囲気がすっかり明るくなるところがマコちゃんの魅力です。
指輪を狙う謎の美女の役の真里アンヌさんも大人の匂いを振りまいて、なかなか好演でした。
思わず吹き出したのが堺正章さんの実の父親で、得意のおばあちゃん役で出演する堺駿二さんの「この人達は散髪代も無いのかね、赤いおべべ着て、親の顔が見たいわ」というセリフ。監督は中平康さんのようです。さすが!
(悪者に狙われて)危険だから、とホテルの一室で缶詰にされるシーンでヴィレッジ・シンガースがブラウン管を通して歌っていると、「いいよなー、俺達もパーっとしたところでやりたいよな」というセリフに続けてメドレーで演奏シーンが流れます。「僕のハートはダンダン」ではメンバー全員がギターを持って演奏します。(加藤充さんはベースかもしれません)田辺さんが歌う「ロンリーマン」では、昭ちゃん(田辺さん)は照れくさいのか、タバコをくわえたままなんですが、歌いづらくないんでしょうか?(笑)
演奏シーンで、間奏になるとマチャアキと順が「いい女だなー」「無理すんな」などと会話しているのですが、間奏が終わるといきなり歌いだす、というのも楽しかったです。バスの車内で「メラメラ」を演奏するのですが、バスが止まると演奏もいきなり止まり、バスが動き出すと再び演奏が始まる、というのもありました。ラストで主題歌の「夜明けの太陽」をステージで演奏しているのですが、ご丁寧に「赤白歌合戦」という文字が。(笑)
芸達者な堺正章さんと井上順さんに引っ張られて、作品全体も楽しい喜劇映画として仕上がっている、と思います。
「ザ・スパイダースの大騒動」(’68)は後ろを走っていた車と衝突して、運転していた女性と仲良くなるのですが、結局その女性は更に後ろから追突した車を運転していた男性と結婚してしまう、というドタバタ喜劇です。
マチャアキが後ろの車の女性に見とれていると、順が「どーんとぶつかってみろ」というと本当に車がぶつかってしまいます。この女性を演じるのが奈美悦子さんで、現在と違って(笑)おしとやかな女性を演じています。「愛しているから」という歌も歌っています。
マチャアキが妄想するシーンが何度も出てきますが、「風が泣いている」では南の島にいるマチャアキ(後ろで奈美さんも踊っているような。。)と北極で演奏している他のメンバーの対比がおかしかったです。「なればいい」ではとてもサイケデリックな映像が見られます。
ラストでまたもや後ろの車の女性に見とれているマチャアキと順に、その女性が口紅で「病院で観てもらった方がいいんじゃない?」と書いた雑誌を渡すシーンも笑えました。
「ザ・スパイダースのバリ島珍道中」(’68)は海外公演に出かけるスパイダースがまたもや悪者に追いかけられ、予定しなかったバリ島へ逃げ込む話です。
香港に出かける直前にバナナにつまづいて昭ちゃん(田辺昭知さん)が同行出来なくなってしまいます。「次の公演地にいくまで、マチャアキ、代わりにやってくれ」という訳で、香港での「ヘイ・ボーイ」の演奏シーンではマチャアキがドラムを叩きながら歌います。
今回は謎の美女(笑)の役に杉本エマさんが扮して、スパイダースの行く先々に現れます。「メラメラ」でのゴーゴーを踊るシーンはとてもセクシーです。
悪者に追いかけられ、空港に現れるスパイダースは、「とにかくすぐ出発する便に乗れ」とばかりに逃げ込んだのがインドネシアのバリ島で、大学の研究で当地に滞在している日本人女性の役の小川ひろみさんに出会います。彼女はとにかく素敵です。彼女の出演シーンだけでもこの作品を観る価値があります。
「サマーガール」のプールのシーンでは、犬かきで泳ぐマチャアキが笑えます。「メラメラ」の演奏シーンでは小川さんとインドネシア人の恋人が親しそうに話しているのを見たマチャアキが、嫉妬に狂って(笑)歌うところが歌詞とぴったりで、カッコよかったです。
事件が解決して、そのお礼に現地の人達が見守る中で「真珠の涙」を演奏するのですが、曲の最後の♪真珠の涙 という歌詞に合わせて小川ひろみさんが大粒の涙をこぼすシーンは本当に感動的でした。
揺ぎ無い演奏力、歌唱力と抜群のショーマンシップを発揮して、「魅せるGS」の最高峰に君臨するスパイダースの映画は充分鑑賞に耐える、と私は思います。
ここまで日活映画に関わる話をさせていただいたのですが、音楽好きのヤスシの虫が疼きはじめてきました。
日活映画の話を一旦終わりにさせていただいて、次回から歌謡曲にまつわる話をさせていただきたい、と思います。
これまで駄文にお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます。
「オレを忘れちゃ困るぜ、ヤスシ。お墓の下でオネンネしたくなかったら、早いとこ再開するんだな。その方が身の為だぜ。」という「エースのジョー」の声が聞こえるような気がします。機会を改めてまた、日活に関するお話をさせていただきたい、と存じます。
「その日まで、サラバじゃー」
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